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木材は動くことをやめるのか

ラワン材

作業場で40年以上保管していたラワン材です。


年月を経た木材は狂わないと言われます。木材を安定させるために環境に馴染ませるという事も言われます。このラワン材は、たっぷり同じ環境で時を過ごしてきたと言って差し支えないでしょう。


大きさは110mmx100mm、厚みは表裏1mmずつフライスして平面を出し、約13mmになっています。

このテストピースはフライスしてから1年ほど、全面を空気に触れるようにして作業場に置いておきました。

作業場の湿度は年間通して大体40%から65%の範囲内です。日によって例外もありますが。

動かないでしょうか?

木表

木裏

ご覧の通り、反っています。


冒頭の説は真実だと思いますが、あくまでも「動きにくくなる」であって、「動かなくなる」ではないのです。


木材が動くことをやめないという事実は、築年数の経った木造住宅で、木製品が結構身近にあるような、昭和な住環境にいると日常的に経験します。


木材が動く原因には残留応力もありますが、使用する上で問題を起こしやすいのは、主に乾湿による膨張収縮の繰り返しや長期的な収縮によるものです。

木材の伸縮量は方向によって差があります。接線方向(円周方向)が最も動き、放射方向(半径方向)は控えめに動き、繊維方向(軸方向)はほとんど動かないとされています。

方向には背腹など他の要素もありますが、小さな物を作る場合はあまり考慮しなくてもよいと思います。

板目、柾目、追柾といった、丸太をどの方向に製材するかの違いで、木材の各面の伸縮量は変わってきますが、いずれにしても膨張収縮は起きます。

対策として、変形を見込んだ構造を採ったり、仕上げ塗装によるコーティングで乾湿による膨張収縮を抑制したりすることになります。


部材を組み合わせて作るものは、(形態によりますが)適切な構造を採れば反りやねじれなどはだいぶ抑え込むことができますが、膨張収縮の現象そのものは抑え込めません。なお膨張収縮を構造的に不適切な方向で阻害してしまうと、割れの発生する可能性が高くなります。


仕上げ塗装は造膜系と浸透系に大別できます。造膜系は木材表面上に形成した塗膜によって乾湿をかなり抑制することができます。浸透系は木材表層直下付近を塗料でふさぐことで乾湿をある程度抑制します。

着色しないクリア仕上げで代表的なものは、造膜系ではウレタン、ラッカー、シェラックなど、浸透系ではオイルフィニッシュなどです。

食器や調理器具などは、使用中、接触や摩擦の多い道具ですので、コーティングしても比較的短期間ではがれはじめます。そのため最初から何もコーティングせず、そのかわり小まめにオイルやワックスを塗って保管することで乾湿対策とする事もまた一般的です。

※コーティングしても木材の乾湿は100%完全には阻止されません。構造の検討が不要になるということではありません。

※必ず膨張収縮を抑えなければならないということではありません。木材の吸湿、放湿する性質を生かしたい場合など、何も塗らないほうが良い場合もあります。


ちなみに、環境その他の要因によって変形を起こすのは木材だけではなく、身の回りのほぼ全ての素材は(程度の違いはあれど)変形を起こします。金属の変形について鉄道のレールを例に習った記憶はないでしょうか。私は仕事において合成樹脂の変形する性質に悩まされた事があります。

素材の変形と付き合っていかざるをえないのは何も木材に限った事ではないのですが、木材の変形は目に見えて現れやすいため槍玉にあがりがちです。


個人的には、実用上問題ない程度の木材の動きは気にしません。むしろ環境の変化や年月が自然に体感できるのは好ましいと思います。

接合部などの将来的な段差や隙間の発生が見込まれる箇所で、境界の無いことを完成直後のみ自慢できるような意匠は、後々木材の動きがみっともない形で現れてしまうので避けたいと思います。そういった部分が最初から境界として意識されるような意匠を好みます。

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